ミラージュ小話あれこれ |
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「藤を見に行きませんか?」
それは直江が自分の宿体−橘義明の誕生日に希望したことだった。 「藤?まあ、俺は別にいいけど…そんなんでいいのかよ」 「欲を言えば、夕飯までお付き合いして頂けると嬉しいですね」 「それぐらいは最初から付き合うつもりだし」 「ありがとうございます」 直江は、いつものように万人受けするような笑顔で軽く頭を下げると、愛車に高耶を乗せて藤で有名な公園へとやって来た。 流石に松本ではまだ時期ではないので、高耶にとっては高速に乗って久々の遠出だった。 「風が気持ちいいな」 「そうですね。陽気もいいですから、流石にシャツ一枚でも汗ばみます」 「お前はあんま暑そうに見えないけどな」 高耶はTシャツの袖を肩口まで捲りあげて、手の平で顔を扇いでいる。 「ああ、あの棚が一番の目玉だそうですよ」 直江が指差した先には、なるほど見事な藤棚があった。 紫と白、両木が競合しあっているかのようだ。 流石にGWということもあって観光客で賑わっているが、藤棚の下は日陰になっているためか幾分涼しい。 高耶は先ほどから直江が意図して自分に日陰を作っていたことに気づいていたので、藤棚の下に来るとより涼しい場所へと身体を押した。 「高耶さん?」 「お前、相変わらず気遣い過ぎ」 「何かしましたか」 「…無自覚かよ。ったく」 ちょうどベンチが空いたので、高耶は直江を座らせて自分も隣に腰掛けた。 「いい香りだな…」 「ええ、白藤は特に匂いが強いですからね」 「目閉じてると、凄くよく分かる」 「高耶さんはツウですねぇ」 隣でクスリ、と笑われ高耶は少しむくれてみせる。 「単純にそう感じただけだよ」 「いや、俺もやってみようかな」 そう返すと、直江は座禅を組むときのような静謐さで目を閉じた。 高耶もそれを確かめると、再度自分も目を閉じた。 2人の間を流れる微風に乗って、藤の濃厚な香りが感じられる。 高耶は、その香りに混じって直江の匂いをも感じ取っていた。 (相変わらず、スカした香水つけてんのかと思ったら、今日は直江自身の匂いしかしないんだな) そこまで考えて、高耶は急に恥ずかしくなった。 (直江マニアかよ俺は) 「どうかしましたか?」 聡い直江に気づかれては更にいたたまれないと思い、高耶はとっさに「何でもない」と首を振って直江の腕に体重を傾けた。 触れ合ったところから、互いの体温が伝わって気持ちが落ち着く。 高耶は「来てよかったな」と自然に口に出していた。 「貴方にそう言って貰えたら、私も我が儘を言った甲斐がありましたね」 「お前のは我が儘のうちに入らねぇって」 高耶は苦笑して立ち上がった。 また少し人が増えて来たようだ。 「夜だとまた一層香りが強くて、提灯の明かりで藤の見え方も違うんです」 「へえ…それもいいな」 「貴方には、夜の藤の方が似合いますね」 「恥ずかしい奴」 直江は相変わらず笑って「高耶さんだけです」とうそぶいてみせた。 「そろそろ松本に戻りましょうか」 「え、まあ俺はいいけど」 「実は、夕食は予約してあるんです」 「はあ?早く言えよそういうことは」 「すみません。でも、晴家や長秀たちが待ってますよ」 直江の言葉に、先を歩いていた高耶は一瞬目を丸くして振り返った。 「お前のことだから、二人きりがいいとか言うかと思って美弥にも帰らないって…」 「それは惜しいことをしましたねえ。ああ、美弥さんは長秀たちが迎えに行ってるはずですから」 「はぁ、んだよったく」 「たまには大勢に祝って貰うのもいいかなと」 それに、高耶さんには誕生日以外でもたっぷり相手して貰いますから。 直江に耳元で囁かれて、高耶は深々とため息をついた。 「じゃあ、さっさと車出せよ」 「はい。高耶さんを無事に連れて帰らないと美弥さんたちに怒られますから」 「美弥は怒んねーと思うけどな。お前、やけに信頼されてるし」 「それは光栄ですね」 2人は車に戻ると、混み始めた高速に足止めをされつつも何とか松本まで帰り着いた。 予約時間には間に合ったようで、直江は待ち合わせの店の駐車場で時計を確認すると、シートベルトを外して少し伸びをしてみせた。 「流石に疲れただろ」 「年のせいですかねぇ。最近すぐ肩が凝るんです」 「いや、そういう意味じゃなくてだな…」 まあ、自分より11も年上の肉体なんだしな、と高耶は納得しつつも思わず笑ってしまった。 「あんまり笑わないで下さい」 「悪ぃ、別に笑うつもりは無かったんだ…。あー…」 「?」 どこか煮え切らない口調の高耶に直江は心の中で首を傾げた。 「あー、」 「高耶さん?」 「直江、誕生日おめでとう」 「高耶さん…ありがとうございます」 いつもの微笑ではなく、少し照れたような困ったような直江の笑みを見て、高耶は座席のリクライニングを倒して一息ついた。 おめでとう、の一言にこれだけの緊張を感じるのは1年に1度でいいと思う。 息を吐いて伸びをした高耶に、直江は思わず覆いかぶさり軽くキスをして離れた。 「すみません、我慢出来なかったもので」 「今日だけは許してやるよ」 高耶は満足げに口角を上げると、今度は自分から腕を伸ばして直江を引き寄せたのだった。 <おまけ> 「あー、あいつら丸見えだってこと気づいてないだろ」 「今日くらいはいいんじゃない?直江の誕生日なんだし」 「おにーちゃんも、結構やるようになったんだ…」 「直江さんはともかく高耶まで…!」 「え?仰木くんが!?直江さんと!私も見たいー!」 ちゃっかり居る譲と沙織(笑)。 直江、HAPPY BIRTHDAY! #
by higame
| 2010-05-03 20:53
| SS
その日、高耶は暑さに耐え切れなくなって目が覚めた。
昼まで寝坊を満喫しようという目論みは外れて、結局6時間程の睡眠だった。 いつものようにポストを覗くと、ポスティングされた広告のほかに葉書が1枚届いていた。 裏面が写真になっていて、大草原にただ1本、凛と立つ青々とした木が写っていた。 表面には、誠実そうに調った字で「誕生日おめでとうございます」と添えられている。 差出人は橘義明―直江だった。 住所と消印が宇都宮になっているのでどうやら実家から送って来たらしい。 高耶は直江の書いた字を指でなぞってから、その葉書を口元に当てて暫く思案した後 かすかに息を吐いて部屋へと戻った。 今日は大暑。 暦の上ではあるが、その名に相応しく今年1番の暑さだとニュースの天気コーナーが告げるのをぼんやり眺めて高耶は畳に寝転がった。 窓に吊り下げた風鈴も、その役目を果たさぬまま沈黙を保っている。 暑い。 しかも何故か胸が重い。 冷蔵庫にスイカの食べかけがあったのを思い出すと、高耶は億劫そうに立ち上がった。 まさにそのタイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴った。 世間は夏休みシーズンだというのに、昼間からご苦労なセールスマンも居ることだ、と勝手に決め付けた高耶が玄関の戸を開けると予想に反して直江が立っていた。 「こんにちは高耶さん。お誕生日おめでとうございます」 この暑さの中、相変わらず黒スーツに黒ネクタイの男は汗一つかいて居ないような涼しげな笑みを浮かべて高耶を見た。 「ったく、来るなら来るって言えよ」 高耶は直江を招き入れると、先に座らせて冷蔵庫から麦茶を運んで来た。 「飲酒運転で捕まったら困るからな。ビールは出さないぞ」 「おや、今晩は泊めて下さらないんですか」 直江の言葉は軽く無視して、高耶はテーブルの上に置いたままの葉書を差し出した。 「来るんなら何でこんなもん送るんだよ」 「ちゃんと私より先に着いてましたか」 直江は葉書を受け取ると写真を見つめて嬉しそうに笑った。 「もしかして、俺が来ないと思った?」 わざとからかうように言う直江を腹立たしく思いながらも、高耶は先程までの胸のつかえが正にその予想が原因だったのだと気付かされた。 葉書の主が直江だと分かった時、わざわざこんなものを寄越すということは今年は来られないんだなと高耶は確かに思ったのだ。 毎年当たり前のように祝ってくれる存在の大切さを今更のように思い知らされた。 それは、直江が自分の誕生日に会いに来ないはずがないという確信に裏付けされたものではあったが。 「北海道旅行に行っていた叔母から貰ったんですが、この写真を見て高耶さんを思い出したものでつい出してみたくなったんです」 今日はふみの日でもありますしね、という直江の言葉に高耶は眉をひそめた。 相変わらず変なことをよく知っている男だ。 いや自分が物を知らなさ過ぎるのかもしれないな、と高耶は苦笑した。 「そういや手紙なんて、学校の宿題ぐらいでしか書いたことないな。ほら、よくあるだろ。キャンプとか修学旅行先からとか」 「私も覚えがありますね。ああそうだ、来年は高耶さんから私に手紙をくれませんか?」 「俺が、お前に…?」 「そうです。高耶さんからの手紙、楽しみにしていますよ」 心底楽しみだ、という直江の笑顔に慌てて高耶は首を振る。 「無理無理!俺文才もねぇし…それに何で直で会う奴に手紙出さなきゃならねぇんだよ」 「手紙は作文と違って採点されたりしませんから、文才なんて関係ありませんよ。俺は貴方から手紙が貰えればそれで満足なんです」 それに、と直江は続けながら高耶の手を握ると 「手紙は郵便でなくとも、直接相手に渡す方法もあるんですよ」 と、またしても高耶の嫌がるような提案をしてみせたのだった。 「1年も先のことなんて約束出来ねぇぞ」 「高耶さんはそう簡単に約束を破ったりしませんよ」 ---------------------------------------------------------------------------------------------- 高耶さんHAPPY BIRTHDAY! 直江が送ったハガキ写真のイメージは「高耶」命名の元になった木と同じような感じで。 のび太と似てるな(笑)。 写真はちょっと日暮れ空で、こっそり半月が出てたり・・・という要らない裏設定まで考えた馬鹿。 月= 直江という嫌なイメージを思い出した大暑でした。 #
by higame
| 2007-07-23 22:46
| SS
「どうやら今生の命運は使い果たしてしまったようです。また次の換生での邂逅を…」
言葉尻が途切れたところで直江の、いや「九郎左衛門」が息絶えるのを景虎は焦燥感に駆られながらジッと見つめていた。 最後の一呼吸、吐き出した息が弱くなって行く様子を見守っていた景虎は、直江が微かに笑ったような気がして視線を合わせると普段と変わらぬ熱を感じて確かに安堵する。 景虎は、己の背筋を生暖かい汗が流れるのを感じていた。 何故直江の死に焦るのか、何故見つめ返された視線に安堵したのか。 自分自身の心が分からず、己の腕に爪を立てた。 元々換生は、人道に悖る行為でありながら夜叉衆の面々には毘沙門天と深い結縁を交わしたことで許されたものだ。 初めて換生をした景虎たちにとって、次の「生」が約束される保証はない。 (もうこの男の熱を、感じることが出来ないとしたら-?) だとしたらどうだと言うのか。 直江信綱は憎めこそ亡くして惜しいと思う存在ではなかったはずだ。 そう、かつてはそうだったのだ。 景虎は己の心の鏡を覗くように目を閉じると、少しずつ冷たくなっていく直江の身体に触れた。 もう景虎自身も分かっていた。 どんなに憎んでも足りないと思い、また臣下と名乗られることにさえ虫酸が走った相手を今は手放したくないところまで来てしまっていることを。 直江の体温が奪われていくのを少しでも遅らせるように、景虎はその肉体を摩った。 景虎を助けるため刀を突き立てた首筋、怨霊征伐で受けた裂傷。 そして-今は閉じられた眼。 この男の熱を帯びた身体と視線を、もう二度と感じることが出来ないのだとしたら。 景虎は深淵に沈む心の奥深さに身震いした。 何故これほどまで怖れるのか、何故これほどまでに焦がれるのか。 「直江…」 呟いた口が、既に男の名前を刻むことに慣れきってしまっている事実を証明していた。 ひゅっ、と吸い込んだ息は上手く吐き出すことが出来ず胸に重い痛みを与えた。 「転生することは、相成らぬ」 やっとのことで搾り出した声は途切れ途切れではあったが、確固とした意思を含んでいた。 まだだ。 まだお前との決着がついていない。 「決着」という言葉が二人の何に対して向けられた言葉だったのか。 景虎自身も分からないまま、直江の身体から惜しむように手を離したのだった。 「景虎さま―」 背後からかけられた声音は以前とは異なったものの、その深みを帯びた低さと-何よりも景虎が求めて止まなかった熱を含んでいた。 「転生などして逃げなかったとみえる」 渇いた喉から出た言葉は、相手にはともかく自分自身滑稽でならなかった。 転生など、許せるはずがない。 「私は景虎様の臣下にござりますれば」 抑揚のない声にすら、景虎は息を飲んで耳をすませた。 振り返ることは自尊心が許さなかった。 ただ、この男が自分の許へ戻って来たことだけが分かればそれでよかった。 「今生も、上杉のために励め」 「御意」 直江の諾と頷いた動きが、空気に乗って動くのを感じながら景虎は前を見据えて歩き出したのだった。 後ろから着いて来る足音が、当たり前に為されるものだということに慣らされてしまった自分に気付かないまま―。 邂逅の果てに行き着く先を、まだ2人は知る由もなかった。 #
by higame
| 2007-06-18 21:30
| 30WORDS
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